1. TOP
  2. 検証サービス
  3. ASR博士の環境ショートレポート
  4. 第15回「アスベスト含有建築物の解体工事」

第15回「アスベスト含有建築物の解体工事」

    環境レポート「アスベスト含有建築物の解体工事」

    アスベスト(石綿)」は天然に産出する繊維状の鉱物で、不燃性、耐熱性、耐摩耗性や電気絶縁性など様々な優れた特性を有し、安価であったため、建築資材や工業製品などに広く使用されてきました。

    アスベストは人間の毛髪の1/5000という細さのため浮遊しやすく、肺に入り込むと排出されにくいのが特徴です。このため長期間アスベストによる刺激を受けて、じん肺、肺線維症、悪性中皮腫や肺がんなどの病気につながると考えられています。最近の大気汚染で話題になっている「PM2.5」と似ておりますが、アスベストの安定性や形状を考慮するとPM2.5以上に深刻な健康障害を惹き起こしやすい危険な物質と云えます。

    10〜20年後にはアスベスト建材を使用した建築物の解体工事がピークを迎えます。年間で約100万トンに上る大量のアスベストが排出されるため、政府は解体作業に従事する方や周辺住民の健康被害を防止するため、「大気汚染防止法」の改正を国会に提出しました。今回はアスベストに係る法規制の動向を中心に纏めてみました。

  • アスベストの種類及び用途


  •  アスベストの原石には蛇紋石系と角閃石系があり、製品としては白石綿(クリソタイル)、青石綿(クロシドライト)、茶石綿(アモサイト)が知られております。

    蛇紋石系石綿の原石 白石綿の顕微鏡写真 繊維状白石綿
    蛇紋石系石綿の原石
    白石綿の顕微鏡写真
    繊維状白石綿


    アスベストは、不燃性、耐熱性、防音・断熱性の優れた特性を活かして約90%が建築資材に使われ、残りは繊維や布状に紡織加工した工業製品、塗料の混和剤、電気絶縁材等に使用されてきました。建築資材がどのような所に使用されているか図で示します。
    アスベスト他建築資材使用図

    アスベスト他建築資材使用場所のリスト
    1995年(平成7年)に有害性の高い青石綿、茶石綿の製造などが禁止され、2006年の「労働安全衛生法」の改正で、白石綿の代替品が確立していない一部の工業製品を除いて製造・輸入・使用・譲渡・提供が禁止となりました。2012年、代替品が確立されたことで、石綿は完全に製造・輸入・使用・譲渡・提供が禁止になりました。
    ただし、無害化・飛散防止・含有検査技術の研究など、一定の要件を満たせばこの限りではなく、また廃棄物処理業者への受け渡しは禁止規定に該当しません。

  • アスベストに係る法規制

  • アスベストに係る法規制を以下に示します。

    アスベスト他建築資材使用場所のリスト

    1988年の調査では、一般に生活する居住空間には0.19〜2.83本/リットル(=190〜 2,830本/立方メートル)、大気中には約0.1〜10本/リットル(=100〜1万本/立方メートル)のアスベストが浮遊しているという結果が報告されています。「大気汚染防止法」でのアスベストの規制基準は10本/リットル以下ですが、これは世界保健機関(WHO)による調査で都市部の一般大気中の濃度が1〜10本/リットル程度では健康へのリスクが著しく低いとしたことに基づいております。

    日本では、1960年(昭和35年)、「じん肺法」がアスベストの規制に関する最初の法令で した。1975年の「労働安全衛生法」の改正により石綿重量比5%以上の禁止及び吹き付け アスベストの使用禁止が制定され、アスベストの本格的な規制が開始されました。

  • 大気汚染防止法の改正動向


  • 政府は3月29日、「改正大気汚染防止法案」を閣議決定し、国会に提出しました。これは前述したように、10〜20年後にピークを迎えるアスベストを使用した建築物の解体工事に備え解体作業従事者や周辺住民の健康被害を防止するために規制を強化するのが目的であり、公布から1年以内を目途に施行の予定です。

    1)アスベストの飛散を伴う解体工事の届出義務者を「受注者(工事施工者)」から「発注者」に変更する。「発注者」は、解体作業を実施する14日前までに都道府県知事に届出る。

    2)解体工事を行う「受注者」はアスベスト使用の有無を事前に調査する。「受注者」は調査した結果を「発注者」に環境省令で定める事項を記載した書面で説明する。

    3)石綿を含む解体工事を実施する時は、「受注者」は調査結果や環境省令で定める事項を、解体工事場所に公衆に見やすいように掲示する

    4)「発注者」の「受注者」に対する配慮事項がより具体的に規定化された。

    5) 環境大臣又は都道府県知事への報告や現場への立入り検査を強化する。


  • おわりに

  • アスベスト浮遊 アスベストは浮遊していないのが理想ですが、アスベスト建材を含む建物での通常生活程度では健康に影響するレベルではない、と云われております。アスベスト建材を粉砕(解体)して大気中に浮遊させない限り危険性はない、と判断されます。

    私達は綿埃や紙粉などの繊維状物質などをアスベスト以上に肺に吸い込んでおりますが、アスベストと異なって肺の中で無害化されることが知られております。

    アスベストの無害化処理は、高温溶融処理や放射線によるアスベストの変性など、商業ベースではこれからの技術といえると思います。今後、大量に排出されるアスベストの効果的・効率的な無害化技術が確立されれば、「特別管理産業廃棄物」として埋立てを厳重に処分・管理しなければならないアスベストの処理が加速することが期待されます。

    (参考資料)
    ・「大気汚染防止法の一部を改正する法律案の閣議決定について」(2013.3.29環境省水・大気環境局大気環境課 )
    ・石綿(アスベスト)に対する法規制



    前のレポートへ 環境ショートレポート目次ページへ戻る 次のレポートへ