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第31回「地球温暖化による海面上昇・高潮対策」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

     今年の関東地方のソメイヨシノは、地球温暖化の影響か、例年に比べ2週間ほど早く開花し、残念ながら東京では葉桜の中での入学式になってしまいました。政府は2018年2月20日、地球温暖化による農作物の品質低下や災害・異常気象などによる被害を軽減するため「気候変動適応法」を閣議決定し、今国会に提出しました。「パリ協定」に基づいてCO2など温室効果ガス(GHG)の排出に削減の効果が出たとしても、地球温暖化はすぐに解決できる問題ではありません。温暖化の影響による被害を抑えるため具体的な対応策を計画し、実行できるようにしたのが「気候変動適応法」です。

    気候変動の影響は災害・異常気象など様々な現象を引き起こしておりますが、今回は「海面上昇」について纏めてみました。

    2.海面上昇の原因と現状

    地球温暖化による海面上昇は、海水温度の上昇による海水体積の膨張が主原因と言われております。次いでグリーンランドの氷床や氷河など陸上の氷が溶けて海に流れることに起因するといわれております。

    気象庁が地球規模での海面水温の長期変化傾向を纏めた図を示します。この図から、気象庁は100年あたり0.54℃の上昇とし、地球温暖化の影響と重なって海面水温の上昇幅が次第に大きくなっていると報告しております。

    図 海面水温の推移(気象庁ホームページより)

    海面水温の推移(気象庁ホームページより)

    2013年に公表された国連の「気候変動による政府間パネル(IPCC)」の報告書では、21世紀初頭に比べ21世紀末には26〜82cmの海面上昇が見積もられております。本報告書では南極大陸の氷床の影響はまだ不確定要素が大きいため考慮されておりません。地球温暖化が進めば降雪による積雪以上に氷床の海への流出のほうが増えて、海面上昇は上記の数値以上に悪化するのではないかと思います。

    3.海面上昇による浸水の脅威

    米国、豪州、中国の科学者のチームが2017年6月、気候変動に関する世界的な研究誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に論文を発表しております。その内容は1990年代以降に地球の海面上昇のペースが加速しており、この原因は温暖化による海水膨張に加えグリーンランドの氷床が溶けた結果であると発表しております。さらに今後は東京、上海、マイアミなどの海岸部の大都市が海面上昇による浸水の脅威に曝されると予測しております。

    海面上昇で私たちの生活する地域がどの程度浸水を受けるのかをシミュレーションしたのが下記のURLの「Flood Maps」です。海面上昇の数値を変えると水没する地域の表示が変わるシミュレーションマップです。

    http://flood.firetree.net/?ll=33.8339,129.7265&z=12&m=7

    最近、100年に一度の豪雨災害といった「想定外の災害」が発生したとの報道を耳にすることが増えましたが、海面上昇についても想定外の状況が発生するようになると、この「Flood Maps」は恐怖のシミュレーションマップですね。

     「気候変動適応法」では、科学的な情報に基づいた将来予測の整備を「国立環境研究所」が担うとしております。気候変動に伴う海面上昇ばかりでなく生態系への影響、砂浜消失、農作物被害、コメ収量や熱中症増加など多岐にわたる将来予測の情報を整備することになっております。

    4.海面上昇・高潮対策

    シンガポールの調査会社「アジアリサーチ総研」が2018年3月22日、IPCCの報告を基に地球温暖化による海面上昇や高潮対策費用についてアジア12か国の主要53港湾で調査・分析した結果を発表しました。日本では11の主要港湾で土地のかさ上げや防潮壁工事などで合計最大計2兆5000億円の対策費が必要と試算しております。
     「アジアリサーチ総研」では、港湾は地球温暖化被害の最前線で早期の対策が将来のコスト増加を回避する鍵になるだろうと指摘しております。

    表 海面上昇・高潮対策に必要な推定額(億円、最大値)

    地 域 推定額 地 域 推定額
    千葉港 6,600 東京港 1,130
    北九州港 5,300 長崎港 1,120
    横浜川崎港 4,150 尾道糸崎港 980
    名古屋港 2,210 三河港 680
    神戸港 1,340 和歌山港 350
    大阪港 1,140

     浸水被害を防ぐための土地のかさ上げや防潮壁建設の他にコンテナヤードや倉庫の高台移設費用などが見積もられております。 海面上昇・高潮対策は巨大台風や巨大地震に対する備えにも寄与するものと思います。

    5.おわりに

    今回は、地球温暖化の影響である海面上昇について纏めてみました。海面上昇による浸水だけでも災害ですが、海面の上昇よって台風による高潮などの頻度や規模が益々高まり、湾岸沿いを中心に大規模な浸水被害が長期化することが予想されます。

    地球温暖化に備えた港湾整備は海抜0メートル以下の地域が多いオランダで進んでおり、日本も早期の対策が必要な時期に来ていると思います。

    私たち人間界の生活が地球温暖化による気候変動につながり、その反動として自然界からのしっぺ返しが益々狂暴になってくるかもしれません。

    (参考資料)

    ・ココが知りたい地球温暖化(国立環境研究所 地球環境研究センター 2015年10月)

     

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