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7月に入り、「大雨特別警報」が九州・中国や東北地方に発令され、河川の氾濫や土砂災害、家屋流失など凄まじいまでの豪雨災害が発生しました。その後も日本各地で一時間当たり100ミリ前後の猛烈な降雨被害が各地に拡がりました。今年は1980年代に比べ異常気象の発生が30%も増えているとのことです。被害にあわれた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
一方、世界気象機関(WMO)は、欧州、中東、米国等を襲っている熱波は記録的高温をもたらしたと発表しました。イランで53.7℃、米カリフォルニアでも51.7℃を記録し、「人体に危険なレベル」になっていると警告しています。
このような異常気象を惹き起す根本原因はやはり地球温暖化にあるのではと思います。アメリカを除く世界各国が今世紀末にCO2の発生を「ゼロ」にする「パリ協定」の実施に向かう中、日本もエネルギー政策で「脱炭素化」に向け舵を切ろうとしております。その最有力は「水素社会」と言われておりますので、今回は環境法令を離れて「水素社会」に向けた現状と将来像について調べてみました。
水素分子(H2)は無色、無臭の気体で、比重は空気の1/14程度と極めて軽く、沸点−253℃の可燃性ガスです。このため大気上方に拡散して地球上には0.5ppm程度でほとんど存在していません。
水素は酸素と結合した「水(H2O)」や炭素と結合した「有機化合物」として存在します。空気中の水素濃度が4〜74%の範囲で静電気程度のエネルギーで酸素と爆発的に結合(反応)して水ができます。
水素は酸素等と同じく代表的な産業ガスで、製鉄業、石油精製業、化学工業等のある工業地域を中心に自消されており、一般家庭での使用は極めて限定的です。また、金属に対する水素脆化による遅れ破壊の対策も重要課題の一つです。
水素は水やメタン等の炭化水素類を分解しで作られます。現在の水素製造法は、安定供給やコスト面から「水蒸気改質法」と「コークス炉ガス精製法」が中心です。
表‐1 水素の製造法
製造法 | 内 容 | 特 徴 |
水蒸気改質法 | 1)メタン等の炭化水素類と水蒸気を加熱炉で触媒と接触させて水素を製造する。 2)石油精製時に出る低沸点ガスを水蒸気改質法で水素を製造する。 |
CO2が発生。 |
コークス炉ガス精製法 | 鉄鋼製造に必要なコークスを石炭の蒸し焼きで作る際に発生する水素主成分のガスを精製して製造する。 | |
水の電気分解法 | 再生可能エネルギーを用い、水を電気分解して水素を製造する。 | CO2が発生しない。 無尽蔵にある水やバイオマスが原料となる。 |
バイオマス利用法 | バイオマスから作ったメタノールやメタンを原料として水蒸気改質法で水素を製造する | |
太陽光利用水分解法 | 光触媒により水を分解して水素を製造する | CO2が発生しない。 研究段階で、未来技術 |
日本での水素化の取組みは、1973年の第一次石油ショックを契機に、エネルギー問題の国家戦略として「サンシャイン計画」から始まりました。この計画は大きな成果を挙げられないまま2000年に終了となりましたが、応用技術は2009年に熱と電気を取り出す「定置用燃料電池(商品名:エネファーム)」の商品化で水素社会への足がかりを築き、2014年には「燃料電池自動車(FCEVと略記)」が上市されました。
水素を用いるこれらの製品はコスト面で既存の製品に太刀打ちできる状況ではありません。しかしながら、CO2を発生しない地球温暖化対策のエネルギー源として、また今後の石油や天然ガス等の一次エネルギーの安全保障・安定調達のリスクを考慮すると、水等の物質から製造できる二次エネルギー源として拡大し、コストも低下していくと思われます。
2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」で、水素社会実現のため水素をガソリン、都市ガスと並ぶ二次エネルギー源として取組みを加速することが決定されました。水素活用の最重点テーマは「定置用燃料電池」、「FCEV」及び「水素発電」です。
表‐2 エネルギー基本計画の概要
活用テーマ(目的) | 現 状 | 戦略ロードマップ |
定置用燃料電池 (普及・拡大) |
1)家庭用
(0.7kwクラス) 累計販売12万台(2015年5月まで) 2)業務・産業用 (数百kw〜数MW) (米・韓では普及している) |
1)低コスト化 投資回収期間を10年以下に ・140万台導入(2020年) ・530万台導入(2030年) 2)早期に普及を実現化 |
FCEV (普及に向け環境整備) |
1)国内では二社が上市 2)民間13社による水素ステーション設置の共同声明(2011年) |
1)水素ステーション100か所整備 2)普及につながる水素価格、車両価格の実現 ・ハイブリッド車の燃料代と同等以下の水素価格(2020年頃) ・ハイブリッド車と同等の車両価格(2025年頃) |
水素発電 (新技術の確立) (一次エネルギーの調達リスク解消) |
1)既存ガスタービン発電設備で水素混焼テスト実施 2)水素リッチ対応ガスタービンの開発 (ヨーロッパでは水素単独の発電設備の実証試験が実施中) |
1)海外からの水素供給を確立(2020年代後半) 2)水素発電の本格稼働(2030年) ・大規模な水素需要で水素コストが下がり、FCEV等への波及効果が発揮。 |
水素の安定供給 (製造、貯蔵・輸送技術の推進) |
1)化石燃料から水素製造 2)産業ガスとして少量が流通 |
1)CO2フリー水素供給システム確立(2040年頃) |
資源エネルギー庁資料(2015年2月)
(1)日本が目指すエネルギーの「水素社会」を纏めてみました。一方、東京都も2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック競技大会やその先を見据え、「世界一の環境先進都市・東京」実現の一環として「水素社会の実現」を掲げております。2020年までにFCEVを6000台普及、水素ステーションの35か所整備、という目標を掲げています。この他、産業用を含む定置用燃料電池の設置や中小ガソリンスタンド事業者への水素ステーション整備など、「水素社会の実現」に向けて補助制度が公表されております。詳細は東京都環境局のHPでご確認下さい。
(2)英・独・仏のヨーロッパ主要国が2030年から40年までに化石燃料自動車の販売を禁止すると発表しました。そうなるとハイブリッド車を含む化石燃料自動車は生産されなくなります。これは「パリ協定」の実施と、排気ガスによる大気汚染を解消するためで、都市部で深刻な大気汚染に悩まされている中国等もこの政策に舵を切るもの思います。今後は排気ガスを出さないFCEVが注目され、乗り換えが加速されると思います。FCEVのライバルは電気自動車(EV)となりますが、水素コストと満タン時の走行距離で優位に立つ必要があると考えます。
(参考資料) |