第24回 「水俣条約の発効」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

     2017年8月16日、国際的な水銀規制のルールを定めた「水俣条約」が発効しました。地球規模の水銀や水銀化合物(以下、水銀と略記)による汚染、それによって引き起こされる健康及び環境被害を防ぐ目的で、水銀を管理することを目指す国際条約です。
     この条約は2013年に熊本県で開催された国連の会議で採択され、条約発効要件として50か国が締結してから90日後に発効するということが決まっており、2017年5月18日に締約国が日本を含め50か国に達したため、発効することとなりました。現在、日本、米国、中国、欧州連合やアフリカ諸国など74の国と地域がこの条約を締結しています。「水俣条約」発効の背景には、世界では今も大量の水銀が使用され、新たな健康被害につながりかねない環境汚染が広がっている実態があったからです。
     「水俣病」は1956(昭和31年)に熊本県水俣市にて公式に発見され、翌年に発生地の名称から命名されました。水俣湾に排出された工場排水の中の「メチル水銀」により汚染された魚介類を食べたことで引き起こされた、日本の高度経済成長期に発生した「公害の原点」とも言われております。
     今回は、「水俣条約」の規定内容と日本の法律がどう担保しているのかを中心に纏めてみました。

     

    2.「水俣条約」の概要

    発行された「水俣条約」の項目とその規定概要を表に纏めてみました。

    表‐1 水俣条約の概要

    項 目 規定の概要
    1.水銀の産出 1) 新規の水銀鉱山の開発禁止。
    2) 既存鉱山は発効から15年後までに禁止。
    2.水銀の輸出入(貿易) 1) 認められた用途や廃棄処分等の目的以外は禁止。
    2) 輸入国の事前の書面同意制度を導入。
    3.水銀含有製品・水銀を触媒等に用いる製品の製造 1) 対象リストの作成
    2) 電池、一定含有量以上の照明器具、体温計、血圧計等の製造、輸出入を2020年までに原則禁止。
    3) 塩素アルカリ工業、アセトアルデヒド製造施設を対象に、猶予期間後は使用禁止。
    4.零細小規模での金採掘(ASGM) 国家計画に基づき縮減。可能ならば廃絶。
    5.大気への排出 石炭火力発電所、非鉄金属精錬施設等を対象に排出削減対策を実施。
    6.水・土壌への放出 各国が規制対象となる放出源を特定し、放出削減対策を実施。
    7.水銀の一時保管、廃棄物管理、汚染地対策 ガイドラインに基づいて環境上適正に実施。
    8.途上国への資金援助、途上国の技術支援・技術移転の実施 地球環境ファシリティ信託基金を基に能力開発や技術支援を実施。

     

    3.日本国内の水銀のバランス

    データは少し古いのですが、2002~2006年の5年間の水銀の流れを年平均値に纏めたのが図‐1です。国内の需要は1964年の約2,500トンをピークに、以降激減して2014年度は5トンまで減少しております。ちなみに、世界の生産量は1971年の10,000tをピークに減少し、現在は1,000〜2,000tの間で推移しております。

    図‐1 日本における水銀の流れ

    日本における水銀の流れ

         注−1)75tの中で非鉄金属精錬からの水銀発生が70tを占める。
         注−2)世界需要量は2005年の実績値

     

    4.水俣条約と担保法令

    水俣条約」の採択を受けて、国内では2015年6月に「水銀による環境の汚染防止に関する法律(「水銀汚濁防止法」と略記)」が制定されました。その他の法律でも「水俣条約」の規定に関与があれば改正が行われております。「水俣条約」の重要な規定と国内の担保法令の関係を図‐2に示します。

    図-2 「水俣条約」の規定内容と国内の担保法令の関係

    「水俣条約」の規定内容と国内の担保法令の関係

    赤字:国内法令

     

    5.おわりに

     今回は、最近発効された「水俣条約」について纏めてみました。世界的に水銀の使用や排出が減少している中、逆に途上国では水銀の排出が増える傾向と言われております。特に、ブラジルやインドネシアでは、小規模な金の採掘に水銀を使うため、健康に悪影響を及ぼす環境被害が大きくなっております。しかし、途上国では健康被害に関する知識が乏しいため、「水俣病」を経験し、知見を持つ日本が悲惨な水銀による健康被害を防ぐためにも途上国への積極的な技術支援や指導が必要だと思います。


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