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第26回 「平成30年度の環境省の重点施策」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

    2017年8月、環境省の来年度(平成30年度)の概算要求・要望内容が報告されました。
    来年度は、以下の5施策を重点的に展開するとしています。

    1.環境問題と社会経済問題の同時解決に向けた政策展開
    2.国内外で進める気候変動対策
    3.被災地の着実な環境再生の推進と国内外における資源循環の展開
    4.魅力ある我が国の自然の保全・活用といきものとの共生
    5.安全で豊かな環境基盤の整備

    環境省は、「重点施策を中心に環境上の諸課題に取り組むことが経済成長という社会経済上の諸課題も同時に解決できる」という方針に基づいております。
    すなわち、環境ビジネスが経済成長の強力な牽引力となり、その結果として「持続可能な社会の実現」につながる、という考えなのではと思います。
    今回は、環境省の5つの重点施策が来年度の概算要求でどのように展開されているか纏めてみました。

     

    2.平成30年度環境省の概算要求・要望概要

    来年度の環境省の概算要求・要望を表-1に示します。

    表-1 環境省の概算予算(単位:億円)

     

    平成29年度
    当初予算額
    平成30年度
    概算
    要求額
    優先課題
    推進枠要望額
    対前年比(%)
    一般政策経費
    1,484 1,364 592 1,956 132
    エネルギー対策
    特別会計*)
    1,540 2,144 135 2,279 148
    東日本大震災
    復興特別会計
    7,167 6,280 6,280 88
    合 計
    10,191 9,788 728 10,516 103


    *)エネルギー対策特別会計:日本の燃料安定供給や電源利用対策等エネルギーに関する特別会計

     

    3.重点施策の概要

    5つの重点施策が来年度の予算でどのように展開されているか、主な内容を下表に纏めてみました。
    なお、黄色は来年度新しく展開する施策で、オレンジ色は来年度の伸び率が40%以上の伸びを示す施策となっております。(単位:百万円)

    1.環境問題と社会経済問題の同時解決に向けた政策展開 平成29年度 平成30年度
    1)新たな成長につながる気候変動対策(温室効果ガス排出削減策)
     ・ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)化住宅促進 - 6,200
     ・太陽光発電の自立化に向けた家庭用蓄電・蓄熱導入 - 8,400
     ・再生可能エネルギー(再生エネ)電気・熱自立的普及促進 8,000 8,000
     ・グリーンボンドや地域の資金活用による低炭素化推進 - 2,000
    2)国内外における資源循環の更なる展開
     ・リサイクルシステム統合強化で循環資源利用の高度化促進 207 264
     ・IT等を活用した低炭素型資源循環モデル構築促進 - 500
    3)自然資源の保全・活用による観光立国・地方創生・経済成長
     ・国立公園満喫プロジェクト等の推進 10,019 14,970
    4)中長期的な企業価値向上にも資する環境金融の主流化
     ・ESG投資(*1)など環境金融の充実・強化 4,255 4,364
    5)環境分野からの人口減少・高齢化社会への対応
    6)環境分野からの国土強靭化への対応
     ・一般廃棄物処理施設の整備 51,240 77,607
     ・大規模災害に備えた廃棄物処理体制の検討 441 748
     ・災害に強い分散型汚水処理施設としての浄化槽の整備 9,421 12,500
    7)環境インフラの海外展開
    8)各主体のSDGs(*2)取り組み推進のための施策


    (*1) ESG投資:「環境」「社会」「ガバナンス」の頭文字。企業の成長にはESGの観点が必要で、投資する意思決定でも財務情報のみならず、ESGを考慮して投資。
    (*2) SDGs:持続可能な開発目標

    第1)項は、「パリ協定」の気候変動対策に関連する温室効果ガス(GHG)の削減施策です。

    資源エネルギー庁は、今後の電力消費量は産業界や運輸業が減少する一方、家庭用や事業用が増加すると予測しております。特に、家庭用は核家族化による世帯数の増加、利便性向上や快適に生活するため電力消費量は増加することが予想されます。環境省の施策は、各家庭に再生エネによる発電、蓄電及び蓄熱設備の導入で電力の自己消費化を図り、石炭火力発電等からのGHG排出量を削減する狙いだと思います。各家庭の電力自己消費は電力会社への買い取り制度(「固定価格買い取り制度」)にも大きな影響を及ぼす施策と考えます。

    第6)項の環境分野からの国土強靭化については、大規模災害に備えた廃棄物処理施設の防災拠点化や災害に強い分散型汚水処理施設としての浄化槽の整備事業が挙げられております。特に廃棄物処理施設については、その他の重点施策にも予算が計上されていることから、廃棄物・リサイクル処理設備やエネルギー発生設備の充実で一層の低炭素化へ推進する施策と思います。

     

    2.国内外で進める気候変動対策 平成29年度 平成30年度
    1)抜本的なカーボンゼロ・再エネ導入
     ・太陽光発電の自立化に向けた家庭用蓄電・蓄熱導入(再掲 - 8,400
     ・再エネ等を活用した水素社会の推進 4,498 6,500
     ・環境に配慮した再エネ導入のための情報整備 - 1,350
    2)カーボンゼロに向けた徹底した省エネ等の推進等
     ・業務用施設等におけるZEB(*)化・省CO2促進 5,000 6,500
     ・地球温暖化対策の推進・国民運動「COOL CHOICE」推進 1,650 1,500
     ・物流分野におけるCO2削減対策促進 3,700 5,280
     ・低炭素型廃棄物処理・リサイクル設備導入の支援 3,500 4,000
     ・廃棄物処理事業におけるエネルギー利活用・低炭素化支援 610 900
    3)フロン類対策の強化
     ・脱フロン化のための省エネ型自然冷媒機器導入加速化 6,300 9,500
    4)中長期的低炭素化取組の推進(イノべーション技術)
    5)優れた低炭素化技術の海外展開による途上国等への国際貢献
    6)気候変動適応策の強化と適応ビジネスの推進


    (*) ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル。
         エネルギー消費量を省エネやの再生エネ利用で削減し、限りなくゼロにする。

    第2)項のZEB化は、家庭用の電力消費と同様に業務用施設での電力消費量を抑えるための施策です。ビル等の省エネは省エネ機器の普及で大幅に進捗していますが、今後は発電など創エネ・蓄電設備に関する普及が期待されます。

    第3)項のフロン類対策の強化は、年々予算額が増加している施策です。温暖化の影響が極めて高いフロン類冷媒の代替として水、アンモニア、CO2等を用いる冷媒機器を増やしていこうという施策です。

     

    3.被災地の着実な環境再生の推進と国内外における資源循環の展開 平成29年度 平成30年度
    1)福島の環境再生・創生
     ・特定復興再生拠点整備 30,904
     ・中間貯蔵施設の整備等 187,561 321,005
     ・除去土壌等の適正管理・排出等の実施 285,464 124,335
     ・低炭素・資源循環「まち・暮らし創生」 - 200
     ・省CO2型リサイクル等設備技術実証 500 1,500
    2)東日本大震災関係地域における取組
     ・放射性物質汚染廃棄物処理 180,123 144,461
     ・放射線健康管理・健康不安対策事業費 1,329 1,370
     ・帰還困難区域等における鳥獣捕獲緊急対策 192 416
    3)国内外における資源循環・適正処理の更なる展開
     ・一般廃棄物処理施設の整備(再掲) 51,240 77,607
     ・浄化槽整備の推進(再掲) 9,421 12,500
     ・電子マニフェスト普及・拡大事業 90 137
     ・食品廃棄物等リデュース・リサイクル推進事業 68 82
    4)環境分野から国土強靭化への対応(重複のため省略

     

    第1)及び2)項では、環境省は帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備に必要な取組を実施するなど、福島を始めとして原子力災害からの環境再生に向けた取組みを一元的に進めるとともに資源循環政策との融合を進めて一層加速化させていく、としております。原子力災害や東日本大震災からの復興・再生を強力に推し進め、一日でも早く安心して生活できる災害に強い街づくりを期待したいと思います。

     

    4.魅力ある我が国の自然の保全・活用といきものとの共生 平成29年度 平成30年度
    1)自然資源の保全・活用による観光立国・地方創生・経済成長(重複のため省略
    2)生物多様性の確保
     ・希少種保護推進費 662 788
     ・指定管理鳥獣(シカ、イノシシ)対策費 800 1,500
     ・外来生物対策管理事業費 40 200

     

    5.安全で豊かな環境基盤の整備 平成29年度 平成30年度
     ・PCB廃棄物の適正な処理の推進等 5,942 8,141
     ・マイクロプラスチック等海岸漂着物地域対策推進 400 3,850
     ・アスベスト・PM2.5飛散防止総合対策の推進 61 70
     ・土壌汚染対策費 291 324
     ・化学物質による子供の健康と環境に関する全国調査 4,494 6,474
     ・水俣病総合対策関係経費 11,611 11,524
     ・石綿ばく露者の健康管理に係る調査費 64 64

     

    昔は綺麗な海岸も今では漂着物(海洋ごみ)ばかりでがっかりした経験をお持ちの方も多いと思います。これまでに海に投棄された夥しい量のプラスチック等の人工物が海岸に漂着したり海洋生物に悪影響を及ぼしているのは間違いないことと思います。環境省は本年度に比べ約10倍近い要求額を計上しており、本格的な海洋ごみの発生抑制策等が期待されます。

     

    4.おわりに

    環境省の来年度の主な重点施策を纏めてみました。環境省は新たな経済成長の牽引力となる環境政策に取り組むための予算編成としております。

    環境省の予算は、持続可能な社会にするため「低炭素社会・循環型社会・自然共生社会」を目指す予算と思います。

    来年度の税制改正要望も同時に報告されており、「省エネ・再エネ投資促進税制」の新設や各種特例措置が継続されております。税制上の特例措置が設定されている各施策もありますので、お近くの市町村の役所や都道府県庁の担当部署に問い合わせ頂きたいと思います。

     

    (参考資料)
    1)平成30年度環境省重点施策 (環境省 2017年8月)

     

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