1. TOP
  2. 検証サービス
  3. ASR博士の環境ショートレポート
  4. 第8回「温室効果ガス排出量算定の国際基準/スコープ3」

第8回「温室効果ガス排出量算定の国際基準/スコープ3」

    環境レポート

     2004年に改定されたISO14001も次期の改定が審議されており、焦点の一つが調達業務に係る「サプライチェーンマネジメント」と言われております。サプライチェーン数によっては環境経営の活動範囲が大きく変わる可能性がありますので、今後の改定動向には注意が必要です。
     2011年10月、ISO14001改定に先立ち、サプライチェーンの温室効果ガス(GHG)排出量も含めた環境活動に関する基準が「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」と「世界資源研究所(WRI)」との共催組織から「GHG排出量算定の国際基準/スコープ3」というタイトルで公表されました。今回はサプライチェーンにまで範囲が広がったスコープ3についてまとめてみました。

     

  • GHG排出量の報告義務の拡大                         

  •  既にWBCSDとWRIは「スコープ1、2規格」を発行しており、日本では「地球温暖化対策推進法の定期報告制度」や東京都の「排出量取引制度」はこれらに基づく報告がベースになっております。
    欧米では欧州政府やグローバル企業が採用しており、排出量取引制度を持つEUでは排出量の報告は不可欠で、米国でも一定量以上の排出量を持つ有力企業には年次報告を義務付けるなど、GHG排出量の算定及び報告は増えて行くことが予想されます。

  • GHG排出量算定の国際規格・基準                     

  • GHG排出量算定規格・基準は下表の2つが知られています。

    表 GHG排出量算定の国際規格・基準

    規格・基準名

    内 容

    ISO14064:2006 ISO14064は3部で構成され、そのうちの-1及び-2規格が該当する。GHGの排出、削減活動を、合理的な共通の基準に基づいて測定・管理することを可能にするための規格である。
    スコープ-1、2
    2002年制定
    スコープ-1は組織が直接排出するGHGの算定基準であり、スコープ-2は電力などエネルギーの使用によって間接的に排出されるGHGの算定基準である。

    世界規模で権威があるとはいえ、スコープ基準はプライベート基準です。しかしながら、ISO規格に先んじて発行され、ISO14064などのISO規格がスコープ基準の内容を取り込む現象が続いています。

  • GHG排出量算定の国際基準/スコープ3                   


  •  スコープ3のGHG排出量算定は以下の範囲が対象となります。

    1) 調達品に関する全排出量(原材料の採掘、全サプライヤーの生産)
    2) 固定資産に係る排出量
    3) 輸送(搬入及び搬出)に関する排出量
    4) 出張、従業員の通勤に関連する排出量
    5) 廃棄物の処理に関する排出量
    6) フランチャイズ店の排出量
    7) リース品の排出量
    8) 投資に関する排出量
    9) 顧客の製品の使用に関する排出量
    10) 顧客の使用済み段階での製品に関する排出量

    スコープにおけるGHG排出量の算定範囲イメージを下図に示します。

    図-1 組織活動でのGHG排出量算定範囲の位置づけ

     この図からも判るとおり、スコープ3のGHG排出算定範囲は非常に広く、既に1組織でできる範囲を超えております。特に、サプライチェーン全体を対象とした広範な情報収集が必要となり、サプライチェーンへの影響は極めて大きいものとなります。
     サプライチェーンへの波及で思い出されるのは、「RoHS指令」の一大騒動です。
     2002年、特定の有害物質の使用を制限する「RoHS指令」が制定され、サプライチェーンにまで有害物質使用の有無の確認が広がったことは、まだ記憶に新しいところです。
     今回の「エネルギーの消費」は、どの組織にも該当する一般的な環境側面ですから、確認作業の範囲はRoHS指令をはるかに上回ることが予想されます。


  • スコープ3におけるGHG排出量算定手法


  •  スコープ3は、算定範囲は変わりませんが、算定手法としては組織が推計するか、サプライチェーンから排出量のデータを集めて算定するのかは組織の自主判断にまかされております。また除外項目がある場合には、その正当性を明確に示す必要があります。
     自動車や電化製品メーカーなどは、何万社もの世界中の上流企業から購入する部品などのGHG排出量を収集しなければならず、このためには、GHG排出量算出法を含む調達基準の改定が急がれている状況です。
     現在、環境省及び経済産業省などを中心に、下記3項目を中心とするサプライチェーンにおける組織のGHG排出に関する調査・研究会が開催されており、GHG排出量算定のガイドラインが公表されております。

       1) サプライチェーンを段階別に13のカテゴリーに区分し、カテゴリー毎の算定方法の提示。
       2) サプライチェーンの排出量の把握・管理や情報開示の円滑化による、組織の効率的な削減対策の実施。
       3) スコープ3との調和。


  • おわりに

  • 日本の有力企業が取り組み始めているスコープ3の狙いをまとめると次のようになります。

    1) 製品の製造から廃棄までのGHG排出量を算定する、及びその仕組みを構築する。
    2) サプライチェーンが世界中に存在する現在、GHG排出に関する世界共通のルールが必要になる。
    3) サプライチェーンと協同でGHG排出量の把握・管理の仕組みを構築する。
    4) 組織の環境格付けを明確にする。米国の大企業にはスコープ3に基づく環境格付けによる一定評価以上の組織からの購入を明言している。

    地球温暖化という人類存亡に係る環境問題に対し、GHG排出の削減は極めて重大で急務な問題です。
    特に、スコープ3に基づく環境格付による一定評価以上の組織からの購入は、製品の低価格競争を超えて、環境、特にGHG減少という観点からの製品競争を促す第一歩になる、という感を持ちました。

    (参考資料)
    ・サプライチェーンにおける組織のGHG排出等に関する調査・研究会:環境省関連サイト


    前のレポートへ 環境ショートレポート目次ページへ戻る 次のレポートへ