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経済産業省の総合資源エネルギー調査会に設置されている「電力システム改革委員会」の第5回目の会合が2012年5月18日に開催され、電力の小売を一般家庭まで含めて完全自由化(以下、小売り自由化という)する方針で一致しました。
これまでの10電力会社が地域ごとに電力販売を独占している状態を解消し、家庭でも自由に電力会社を選んで契約することで電力会社に対して料金やサービスの競争を促すという狙いがあります。
「電力システム改革委員会」の方針を反映するには「電気事業法」の改正が必要となりますが、福島第一原発事故の発生で浮き彫りになった電気事業の抜本的な見直しが必要と考えている世の動きに対応した改正が期待されます。今回は、小売り自由化を中心に電気事業に関する動向をまとめてみました。
小売り自由化
「電力システム改革委員会」の小売り自由化のイメージ図は以下のようになります。また、これまでの小売り自由化の進捗状況を図に示します。
図-1 小売り自由化のイメージ
図-2 小売り自由化の進捗状況
大手電力会社の収益構造
2006〜2010年度の大手電力各社の収益は家庭などの小口利用者向けが大部分を占めております。例えば小口利用者向けで電気事業の約91%の利益を生み出している大手電力会社もあります。電力会社にとって小口利用者向けは、燃料代や人件費などの原価に利潤を上乗せできる「総括原価方式」で守られ、利益を出しやすい事業構造といえます。
ちなみに、前述の電力会社の小口料金は約23円/kWhで、企業向けの大口料金の約15円/kWhに比べ5割以上の割高料金になっております。
新聞などの報道によると、東京電力は2012年7月に家庭などの小口利用者向け料金を約10%値上げする申請を予定しております。原子力発電所の停止に伴う火力発電設備の稼働増による燃料代の増加分の申請ですが、柏崎刈羽原発の再稼働の有無によっては再度の値上げが必至の状況です。なお、大口利用者向けは2012年4月から契約料金が改訂されております。
値上げ率
柏崎刈羽原発の再稼働 有 |
柏崎刈羽原発の再稼働 無 |
|
小口利用者向け | 10(%) |
16(%) |
大口利用者向け | 16(%) |
25(%) |
原子力発電所を抱える大手電力会社についても、東京電力と同様に原発の再稼働が出来なければ値上げを申請するものと思われます。
「電力システム改革委員会」は小売り自由化の他に「総括原価方式」の中身の透明化や規制撤廃についても議題に上っており、今後の審議内容を注目していく必要があります。
小売り自由化の課題
小売りの自由化は、改正電気事業法を来年の通常国会に提出し、2014年以降の施行と予想されております。家庭でも自由に電力会社を選べることは料金やサービスに対する競争原理が働き、一歩前進と言えると思います。しかしながら、小売り自由化に際しては次のような課題をクリアする必要があります。
・小口利用者向け電力の「総括原価方式」の規制撤廃 ・大手電力会社から送・配電部門の独立 |
大手電力会社から送・配電部門の独立については、2005年4月小売り自由化を50kW以上まで拡大したにもかかわらず、「特定規模電気事業者(PPS又は新電力ともいう)」が安価な電気を作っても大手電力会社が独占支配している送・配電設備を利用せざるを得ず、その使用料が高いために思った以上に料金が下がらないという問題を抱えております。
「電力システム改革委員会」では、大手電力会社からの送・配電部門の分離・独立についても議題に取り上げ検討されておりますので、今後の結論を待ちたいと思います。
電力自由化
以上、小売りの自由化についての最近の動向を纏めてみましたが、本当の意味で「電力自由化」はまだ先が長いというのが現状です。電力自由化は以下の内容が実施されていることといわれております。
1.発電の自由化・・・・・ |
誰でも電力供給事業者になれる。 |
2.小売りの自由化・・・・ |
どの電力供給事業者からでも電力を買えるようになる。 |
3.送・配電の自由化・・・ |
既設の送・配電網を使って、適正な使用料で送・配電できる。 |
4.発送電分離・・・・・・ |
大手電力会社の発電と送・配電を分離し、独占を解消。 |
5.電力卸売市場の整備・・ |
一日前取引、リアルタイム取引など電力の取引市場の整備。 |
日本では2005年4月に開設されたが、大手電力会社が送・配電網を独占しているため、機能していないのが現状。 |
このように、電力自由化が進まない大きな原因は大手電力会社が送・配電網を支配していることにあり、経済産業省の大手電力会社に対する利権撤廃の動向が注目されます。
おわりに
福島第一原発事故以降、地域をほぼ独占していた大手電力会社の既得権益がより一層明らかになってきました。
送・配電の自由化や発送電分離が実現しなければ競争原理が機能せず、安価な電気料金・サービスの提供、技術進歩が著しい太陽光発電などの再生可能エネルギー発電の推進、省エネやコスト削減効果の大きいスマートグリッドの次世代電力網の構築やスマートシティと云った電力の地産地消化の推進など、社会インフラの根幹である産業構造を改革する国家プロジェクトは中途半端なままで推移しかねない状況です。
(参考資料) |